箱根駅伝をデータで振り返ってみる・ちょっと改訂版

id:kuroyuliさんからコメントいただいたように、前エントリにおける2区の考察は我ながら「これはひどい」と思いましたので、ちょっと評価をやり直してみることにしました。

2区・5区の中だけでプレ偏差値を再計算

「2区が『投資』に見合わないんじゃないか」を考える上で、全選手内での評価と2区内での評価を比較すること自体ダメですので、改めて同じ区間のランナー内で「プレ偏差値」を算出し、評価をやり直したのが下の表です。

選手名 大学名 区内プレ偏差値 レース偏差値 総合評価
ダニエル 日大 74.48 67.66 -6.82
村澤明伸 東海 59.66 63.79 4.13
大津翔吾 東洋 42.77 51.18 8.41
高瀬無量 山梨学院 44.57 56.92 12.35

区間賞ながらタイムが伸びなかったダニエルは今回の評価でもやはりマイナス。区間2位の村澤はダニエルを相手に好走、区内ではプレ偏差値が平均以下だった大津と高瀬は予想を大きく超える結果だったことになります。同様に5区についても再計算したのが下の表。

選手名 大学名 区内プレ偏差値 レース偏差値 総合評価
深津卓也 駒澤 69.23 58.62 -10.61
柏原竜二 東洋 66.63 75.16 8.54
久國公也 明治 41.76 39.04 -2.72
大谷康太 山梨学院 38.06 60.45 22.40

前エントリでうっかり失念していたんですが、5区で柏原より良いタイムを持っている選手がいました。駒澤の深津です。トラックではほぼ互角ですが、ハーフマラソンでは柏原より45秒速いベストがありますので、今回追加することにしました。適性の面を考えると、前回の評価よりもよりはっきりした傾向が出た感じのデータです。

ダニエル2区投入と柏原5区投入、どちらが有効なのか

次に、ダニエルと柏原の比較を通じて、2区と5区の違いについて考えてみようかと。
今大会、ダニエルはモグス(山梨学院)の持つ区間記録(1:06:04)を狙うとも言われていましたが、実際のタイムは1:07:37と伸び悩みました。今回導入したプレ偏差値から考えると、どの程度の記録が可能だったのかを、期待値として考えてみました。ざくっとしたやり方ですが、他の選手がすべて実レースと同タイムで走ったとして、プレ偏差値と同じ数値に相当するタイムを計算して、ダニエルの実タイムと比較してみます。

2区平均走破タイム 1:09:58
ダニエルの区内プレ偏差値相当74.48の想定タイム 1:06:18
ダニエルの実レース走破タイム 1:07:37
想定タイムとダニエルの走破タイムの差 1:19
想定タイムと平均走破タイムの差 -3:40

ダニエルの実力を考えると、モグスの記録には若干届かないながら1:06:18くらいのタイムが想定できたことになりますが、実タイムは1:07:37ですから、日大はチームとして1:19だけ想定が狂ったことになります。また、机上の計算ではダニエルの投入によって2区の中で平均的なランナーに対して期待できるアドバンテージは3:40という結果になりました。これを5区の柏原と比較してみましょう。

5区平均走破タイム 1:24:12
柏原の区内プレ偏差値相当66.63の想定タイム 1:20:14
柏原の実レース走破タイム 1:17:08
想定タイムと柏原の走破タイムの差 -3:06
想定タイムと平均走破タイムの差 -3:58

プレ偏差値から想定されるタイムは1:20:14でしたが、実際のレースでは柏原がこれより3分以上速いタイムで走っており、ここがいわゆる「コースへの適性」から生まれる部分と考えられます。そしてタケルンバ卿が考察されているように、「2区に比べて5区の方が偏差が出やすい」という部分が表れているのが最後の「想定タイム-平均走破タイム差」で、平地の走破タイムではダニエルに譲る柏原でも、5区であればコース適性抜きの想定の段階で3分58秒と、ダニエル2区投入より18秒多いアドバンテージを持てるわけです(実際に各チームが事前に行う想定は、もちろん平均的な走破タイムを予測するところから始めなければなりませんから、ここでの計算とは当然異なりますが)。このあたりが「エースの集中する2区」と「適性を持つ者が限られる5区」の違いとなっているのではないでしょうか。

と、いうわけで東洋の評価も再び

区間 選手名 全体プレ偏差値 区内プレ偏差値 レース偏差値 総合評価
1区 宇野博之 64.25 60.25 60.15 -0.10
2区 大津翔吾 57.44 42.77 51.18 8.41
3区 渡辺公志 50.15 39.15 50.76 11.61
4区 世古浩基 51.92 54.21 58.54 4.33
5区 柏原竜二 68.20 66.63 75.16 8.54
6区 市川孝徳 48.40 38.38 53.97 15.60
7区 田中貴章 51.08 53.04 65.06 12.02
8区 千葉優 53.69 56.89 65.26 8.37
9区 工藤正也 52.83 46.44 53.27 6.83
10区 高見諒 59.38 63.42 52.79 -10.63

東洋の区間配置の巧みさがより感じられる結果、と言っていいんじゃないでしょうか。前エントリで使った全体でのプレ偏差値も交えて並べてみると、2区大津は激戦の2区で各校のエースを相手に好走、3区渡辺と6区市川の両1年生も格上のランナーを相手に回して予想以上の結果を残したことがわかります。10区に入ると高評価の高見は勝負がもつれていた場合の切り札の位置付けだったわけですが、大量リードと故障の影響もあって無理をしなかった、という感じでしょうか。
書き足りない点についてはまたいずれ。